2026/04/21 21:00

カウンター越しに何万枚もの「思い出」を印画紙に焼いてきた日々。

店舗を引退して久しいですが、今でも時折、耳の奥で聞こえる気がするのです。

「ちょっと写真屋さん、端っこが切れてるじゃない!」という、あのお客様の鋭い声が。

今日は、写真屋を永遠に悩ませる

**「縦横比(アスペクト比)」**について、

昔と今を並べて、ちょっと語ってみたいと思います。

軽い気持ちで聞いてやってください。

 

1. フィルム時代の「35mmL判」の不都合な関係

昔から、写真の世界には「理不尽な計算式」が存在していました。

一般的な35mmフィルムの比率は 3:2

対して、プリントの定番「L判」の比率はおよそ 1.43:1

そう、最初から計算が合わないのです。

特にパノラマ撮影が流行った頃は悲惨でした。

カメラ側でフィルムの上下にマスクをして撮影するんです。

これをパノラマサイズにプリントするのですが、

やってることは35mmで撮影した写真を

六切サイズに引き伸ばして

上下を立ち落としているのと同じなんです。

またパノラマで撮ろうとするとき、端まで目いっぱい使わなければという心理から不幸が生まれるんです。

紙のサイズというものがありますから、

比率の関係上プリント時に左右はカットされます。

「ここまで写ってるわよ!」と怒鳴られても、

紙の形を変える魔法はありません。

 

メーカーは素晴らしいカメラを作りますが、

その後の「紙にする工程」のことまで配慮してくれることは、

ついぞありませんでした。

 

2. デジタルが持ち込んだ「自由という名の混乱」

デジタル時代になり、状況はさらに複雑になりました。

一眼レフは 3:2、デジカメは 4:3、動画切り出し(HV)なら 16:9

さらに厄介なのは、お客様が

「撮影直後に液晶モニターで完璧な完成画を見てしまう」ことでした。

最初に見た画像が「正解」として脳に焼き付いているから、

プリントで数ミリトリミングされるだけで「失敗作」に見えてしまう。

 

HVで撮った画像を、L判にどこも切らずにプリントしてくれ」なんて

無茶を言われた時は、

自分が物理法則を無視できる魔法使いだと

思われているのではないかと錯覚したものです。

比率の話をしたところで、お客様は「ぽかん」とされるだけ。

「自分に都合の悪い理屈は理解したくない」

これはどの商売でも共通の真理(悩み)かもしれません。

 

3. そして現代・・・

さて、今の時代はどうでしょう。

写真はスマホで撮り、SNSで見るのが当たり前。

紙のトラブルからは解放された……と思いきや、

実は「形を変えたジレンマ」が現代の若者たちをも苦しめているようです。

  • 9:16」のハイビジョン強制

今の主役はスマホの縦長画面。

でもカメラのセンサーは相変わらず横長ベース。

そうなんです、多くのスマホカメラのセンサーは、

縦画面に対して横向きの43なんです。

その形が高画質の撮影に適しているから・・・

しかし、その横向きセンサーで撮影した画像の真ん中を

916の縦HVサイズにトリミングしてスマホの画面で見るのが

現代に続くハイビジョン強制の正体なのです。

  • UI(ボタンや文字)という名の「お邪魔虫」

せっかく良い表情を端っこに配置しても、

投稿すれば「いいね」ボタンや「コメント欄」が顔の上に重なる。

昔の「印画紙の縁」どころではない、

情報の侵食です。

  • 「プロフィールのグリッド」という二重苦

「投稿は縦長で見せたいけれど、一覧画面では正方形に切り取られる」。

おしゃれに撮ったはずの自分の顔が、一覧で見るとおでこから上が消えている……

現代の表現者たちも、システム側の「枠」に必死に抗っているのです。

 

結び:写真は「限られた枠」との戦いである

結局のところ、

写真は「限られた枠の中に、何をどう残すか」

という不自由な芸術なのだと思います。

「画面で見ているものが、そのままの形でどこにでも収まるわけじゃない」

このシンプルな事実に私たちは今もなお、

ガラスの画面越しに振り回されています。

あの頃、

カウンターで「比率がですね……」と

冷や汗をかきながら説明していた私の苦労。

そして今、SNSのセーフゾーンを気にしながら

編集している若者の悩み。

根っこにあるのは、

「大切な記憶を、一ミリも損なわずに残したい」という、

人間らしい真っ直ぐな欲求なのでしょう。

引退した今なら、あのお客様に少しだけ優しく言える気がします。

「全部は入りきりませんでしたが、一番いい表情はちゃんと真ん中に残っていますよ」と。

まあ、現役時代にそんな気の利いたことが言えていれば、

もう少し私の胃も痛まずに済んだのかもしれませんね。