2025/06/17 21:00

 

 

こんにちは、動物園シリーズも5回目となりますとネタが無いのですが、なんとかひねり出してみましょう。

 


皆さんは動物園、好きですか?

 

子供の頃に行ったきりという方もいれば、私のように動物たちの姿をカメラに収めようと、定期的に足を運んでいるという方もいらっしゃるかもしれませんね。

 

動物園というと、ライオンやゾウといった人気者から、図鑑でしか見たことのない珍しい動物まで、たくさんの生き物に出会える場所。

 

でも、最近動物園に行かれた方なら、もしかしたら「あれ? なんか昔と違うな」と感じたことがあるのではないでしょうか。

 

実は、動物園の展示方法って、時代と共に大きく進化しているのです。

 

そして、その変化は、そこに暮らす動物たちにとっても、私たち訪れる側にとっても影響を与えています。

 

今日は、そんな動物園の展示方法の移り変わりについて、写真好きの目線も交えながら少しお話ししたいと思います。

 

 


(1)図鑑から飛び出した? 「分類学的展示」の時代

 

 

私が子供の頃や、それよりもっと前の動物園の主流だったのが「分類学的展示」と呼ばれるものでした。

 

これは、動物を図鑑のように「哺乳類」「鳥類」「爬虫類」といった分類ごとや、「ネコ科」「イヌ科」といった種類ごとにまとめて展示する方法です。

 

大きな建物の中に鳥類が集められている、同じような檻にライオン、トラ、ヒョウ…とネコ科の動物が順番に展示されているなど、まさに「生きた図鑑」といった趣でした。

 

 

【分類学的展示(檻・ケージの時代)の写真撮影】

 

写真を撮ろうにも、どうしても鉄柵が写り込んでしまい、また動物も単調な環境で手持ち無沙汰にしていることが多く、なかなか「その動物らしさ」を捉えるのが難しかった記憶があります。

 

動物たちにとっても、決して快適とは言えない環境だったろうと思います。

 

この時代は「いかに檻を消すか」という制約との戦いであり、動物の生命感を表現するのは非常に困難でした。

 

 


 (2)世界旅行気分? 「地理学的展示」の登場

 

 

次に現れたのが「地理学的展示」です。

 

これは、動物たちの生息している地域ごとにまとめて展示する方法。

 

「アフリカのサバンナ」「アジアのジャングル」といった具合に、その地域に暮らす動物たちを同じエリアで見られるようにしました。

 

分類学的展示に比べると、それぞれの動物がどんな環境で暮らしているのか、少しだけイメージしやすくなりました。

 

展示場も、以前よりは地面に土や植物が使われるようになり、少しだけ自然の環境に近づけようという意識が見られるようになりました。

 

しかし、この展示もまだ「見せる」ことに主眼が置かれており、動物たちの本来の生態や行動を引き出すまでには至っていなかったように思います。

 

写真の背景に少し緑が入るようにはなりましたが、 やはり 「展示されている動物」 という印象は拭えませんでした。

 

 


 (3)生き物としての「生態」に目を向ける「生態的展示」

 

 

そして、動物園はさらに進化します。「生態的展示」という考え方が広まってきました。

 

これは、動物たちが野生で暮らしている環境をできるだけ忠実に再現しようとするものです。

 

単に同じ地域の動物を集めるだけでなく、その動物がどんな地面を好み、どんな木に登り、どんな水辺で過ごすのかを考え、展示場に岩や木、池などを配置するようになりました。

 

隠れたり休んだりできる場所を作るなど、動物たちのストレス軽減にも配慮が見られるようになります。

 

私たち来園者は、動物の姿を見るだけでなく、「この動物はこんな場所で暮らしているのだな」「こんな行動をするのだな」といった「生態」を学ぶことができるようになりました。

 

 

【生態的展示(無柵放養式の時代)の写真撮影】

 

堀(モート)やガラスを用いて、檻をなくしたことで撮影の幅は広がります。

 

生息環境を再現した岩場、草木、水辺が背景になることで、写真のクオリティが劇的に向上し、まるで野生で撮影したかのような写真を撮れる可能性が生まれました。

 

動物たちがリラックスしやすくなり、毛づくろいをしたり、親子でじゃれ合ったりと、より自然な行動を撮影できるチャンスが増えました。

 

ただ問題点もあり、ガラス展示による「写り込み」は多くの撮影者を悩ませました。

 

また堀で隔てられたことにより動物との距離は遠くなり望遠レンズが必要となりました。

 

写真の表現は飛躍的に向上しましたが、新たな技術的課題(反射、距離)が生まれ、より本格的な機材が必要とされるようになりました。

 

 


 (4動物が主役! 「行動展示」が目指すもの

 

 

そして近年、多くの動物園で取り入れられ大きな注目を集めているのが「行動展示」です。

 

これは、生態的展示からさらに一歩進んで、動物たちが本来持っている能力や習性に基づいた「行動」を、来園者に見せることを目的とした展示方法です。

 

例えば、高いところに登るのが好きな動物のために立体的な空間を作ったり、泳ぐ姿を見せるために透明なプールを設けたり、狩りの行動を模した給餌方法を取り入れたり。

 

動物たちが活発に動き回ったり、仲間とコミュニケーションを取ったりする姿を引き出すための様々な工夫が凝らされています。

 

行動展示の意義は、単に珍しい動物を「見る」だけでなく、彼らがどんな生き物なのかを「感じ」「学ぶ」ことにあると言えるでしょう。

 

動物たちが生き生きと暮らす姿を通して、彼らが本来持っている力強さや美しさ、そして複雑な生態を私たちに伝えてくれるのです。

 

これは動物福祉の観点からも非常に重要です。

 

動物たちが本来の行動を発揮できる環境を提供することは、彼らの心身の健康に繋がります。

 

 

【行動展示(体験の時代)の写真撮影】

 

これまでの動物園写真にはなかった、躍動感と生命力にあふれた一枚を撮影できます。

 

水中トンネルを飛ぶように泳ぐペンギン、円柱水槽を垂直に泳ぐアザラシ、ダイブするホッキョクグマ、頭上のロープを渡り歩くオランウータンなどダイナミックでドラマチックな「決定的瞬間」を狙えるようになりました。

 

従来では不可能だったアングルからの撮影が可能になり、写真表現の幅が大きく広がりました。

 

水の煌めきや光の反射を活かした、芸術的な作品作りも楽しめます。

 

動物の表情も非常に豊かになります。真剣な眼差し、楽しそうな様子など、感情が伝わる写真を撮りやすくなりました。

 

良いことばかりではありません。問題点というか贅沢な悩みも存在します。

 

より野生に近い動きは予測困難なため、カメラの機能として高速シャッターや高性能な動体追尾オートフォーカス(AF)が求められます。カメラの性能と撮影者のスキルが試されます。

 

水中トンネルなどは非常に暗く、動きも速いため、高感度に強いカメラと明るいレンズでないと撮影は極めて困難です。これは夜行性動物の撮影にも同じ事が言えるでしょう。

 

お客様側の問題もあります。

 

人気の展示では、最高のシャッターチャンスを狙う多くのカメラマンや観覧者で混雑します。

 

良いポジションを確保するための場所取りが激しくなり、撮影マナーが問われるようになりました。

 

行動展示は写真好きにとっては、まさにシャッターチャンスの宝庫です!

 

動物たちが活発に動く予測不能な瞬間、生き生きとした表情、そして自然に近い環境の中で見せるありのままの姿。

 

これらを捉えることは、写真表現の大きな喜びです。

 

以前は難しかった、動物の「生」を感じさせるような写真を撮ることができるようになりました。

 

その一方で、撮影者に高いスキルと高性能な機材、そして周囲への配慮(マナー)を要求するようになりました。

 

 


 (5)進化し続ける動物園と人々の意識

 

 

その昔、動物園は子どもたちに動物の種類を教える教育の場であり、手軽な家族のレクリエーション施設でした。

 

分類学的展示の時代は世界中から珍しい動植物を収集し、分類・展示すること自体に価値があり、人々は、見たことのない遠い国の動物を「見物」することに大きな喜びを感じました。

 

この時代の「楽しさ」は、珍しい動物の姿形を見ること、つまり「知識欲」や「好奇心」を満たすことにありました。

 

当時の動物園は衛生管理のしやすさや逃亡防止の観点から、動物たちはコンクリートの壁と鉄柵の中ですごしていました。

 

地理学的展示、次にくる生態的展示の時代は、より現在のスタイルに近づいてきます。

 

動物を地域ごとに、動物が本来生息する環境(岩場、草原、熱帯雨林など)をできるだけ再現して展示する試み。

 

堀(モート)などを利用して、檻や柵をできるだけ目立たなくする工夫がなされ始めたことにより、より見やすく写真も撮りやすくなってきました・・・と言いたいところですが時代は高度成長期の只中で自分はまだ生まれていません。

 

ただ想像するに、このような展示方法の変化には見る側のニーズが強かったのではないでしょうか?

 

所得が増え娯楽が多様化し人々がより質の高いものを求めるようになっていく中で、動物園の在り方にも変化が生じたと考えるのは自然な流れではないでしょうか。

 

また1970年代頃から人々が公害や環境破壊に関心を抱き始め世界的なムーブとなりました。

 

自然環境の重要性が認識され、それに伴い動物園にも「種の保存」や「環境教育」といった役割が強く期待されるようになっていきました。

 

 

1997年に生態的展示をさらに一歩進めた「行動展示」が北海道の旭山動物園で始まりました。

 

動物が本来持っている能力や行動(ジャンプする、泳ぐ、狩りをするなど)を最大限に引き出すための工夫を凝らした展示は多くの人々に喜ばれました。

 

時代も後押しをします。この時期、人々の意識向上による動物福祉の考え方が世界的な広がりを見せます。

 

「動物は単なる展示物ではなく、心を持ち、幸福に生きる権利がある」という考え方です。

 

退屈そうに檻の中で寝ているだけの動物の姿は人々に疑問や罪悪感を与えました。

 

そして娯楽への意識は変化していきます。

 

特に若い世代を中心に体験による「共感」と「感動」を求める傾向が強くなっていきます。

 

行動展示から受ける「本物」の体験は、若い世代の心を強く揺さぶります。

 

「すごい!」「かわいい!」といった単純な感想を超え、目の前で繰り広げられる生命のドラマへの共感が生まれるのです。

 

動物も人も等しく生きていると知ることができます。

 

 

 

まとめ

 

 

動物園の展示方法の移り変わりとその時代背景を交えつつ語ってきました。

 

かつて「珍しい生き物を鑑賞する」場所であった動物園は、今や、動物たちの生き生きとした姿に触れ、生命の尊さや環境問題を学ぶ場所へとその姿を大きく変えつつあります。

 

檻や柵をできるだけなくし、彼らが本来暮らす環境を再現した行動展示の中で、私たちは動物たちのより自然な表情や行動を目の当たりにできるようになりました。

 

その変化に合わせ、写真の撮り方も変わってきました。

 

単に姿形を記録する「証拠写真」から、彼らの息づかい、感情、そして彼らが生きる環境の物語を写し出す表現へと、その役割を深めています。

 

これから先どのような変化が生じていくのか予想も出来ません。

 

もしかしたら動物と人との間には、柵も、檻も、壁も、堀も、ガラスもなく同じ地平に立っているかもしれません。

 

カメラのファインダーをのぞき続け見えるのは、以前より笑っている動物たちの姿なのです。

 

これはとても良いことに思えるのです。